『つぐない』に見る贖罪と小説家の業

 

 この映画は、姉の恋愛を自らの幼さ故の過失で悲恋にしてしまった妹の、生涯をかけての償いの話である。姉役のキーラ・ナイトレイ主演の甘い本格派の恋愛映画を楽しもうと見始めると、ちょっと肩すかしをくらう。観る前の映画の印象がソフトなので致し方ないが、妹の償いの方法や罪の意識の持ちようが尋常ではないので、どうもそのギャップに戸惑う観客が多そうだ。 

  ファースト・シーンからラスト・シーンまで、ともかく妹ブライオニーの出番が多いのには驚く。彼女は事件を起こす映画の導入部では13才で、その後姉たちの恋愛の再成就と償いに邁進し始めるのが18才、そしてついには念願の小説家になって真実を語ろうとする老年時の佳境までを、三人の女優が見事に演じ分けている。

  生涯でただ一人愛した男性を自らの嘘で犯罪者にさせた罪の意識は、相当なものであったであろう。彼女のその後の人生を左右させたといっても良いくらいである。ロビーが警察に連行されて行かれる際、彼の母親が大声で叫びつづける「嘘つき!」の声が、後年になっても彼女の耳に鳴り響いたはずだ。

 この映画の作りは実に独特で、通常の映画とはちょっと違う構成になっている。

 実はこの映画、殆どが後日作家になったブライオニーの最後の小説『つぐない』の映画化、という設定なのである。回想シーンには客観的な事実は全くなく、全て妹の視点で眺めた事件の顛末であるか、またここが重要なところなのだが、18才の時点のエピソードの多くがフィクションとして、彼女の姉とその恋人に対するかつての過ちの償い箇所として創作されているのだ。 

  事件の後、離ればなれになったままの姉とその恋人が一時同棲生活をして、ささやかな幸せを得ている場面も、第二次大戦に従軍したロビーが一時帰国した事実はなく、出征の折りほんの短時間顔合わせ出来ただけなので、創作であることが明白である。

 ブライオニーは事件のせいで叶わぬままであった二人の恋愛を、せめて小説の中ではいっときでも幸せな日々を送らせようとする。いや、そのこと以上に心に残るのは、自らを罰するかのようなロビーの口を借りての厳しい叱責、罵声である。
 彼女がようやく探し出した姉の家を訪ねると、何と戦地に行っているはずのロビーが滞在している。彼女は事件の無礼を詫び、名誉を回復させるために努力することを誓うのだが、ロビーの態度があまりにも強行なので驚く。「本当のことを書面に残してくれ。韻も装飾も抜きで。そして二度と来るな」

 妹ブライオニーが小説の中で拘っているのは、誤解と嫉妬、そこから端を発した虚言で罪に問われたロビーの名誉回復と姉セシーリアとの限られた日々の中での、ささやかな幸福だけではない。悲劇に終わった姉達の恋愛を、可能な限り幸福なものにしようという作為にも、無論心をうたれる。しかしこの作者が何よりも重要視しているのは、自らの過失に対する厳しい罰、であることが数々のシーンでの描写から分かってくる。ブライオニーの母親の「嘘つき!」という叫び声も、彼の戦地での酷い惨状も、勿論装飾を抜きにして真相を書面にしてくれとの言葉も、すべて小説家である自らを罰するためのものである。自らを鞭打つ一貫した姿勢は、ある種宗教的な境地さえ思わせ、壮絶である。原作小説のタイトルも宗教を感じさせるものである。

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

 

  小説家が作品のなかで、かつての出来事をかえりみて、贖罪に努めようとする時の限界、どこに真意があるのか、を感じざるを得ない。だから小説などの芸術の企みに気づきつつも「つぐない」を書かざるを得なかった小説家の業というものも、この映画では重要な要素にもなっている。ものを書く、創造する場では、作者の力は万能で神にも匹敵する創造主であることを、再確認した映画でもある。

 本当は妹が映画監督になって、映画を題材にして欲しかったとは、映画ファンの業である。「バッド・エデュケーション」が映画監督が過去を顧みる内容で、ふと思い起こした。「バッド・エデュケーション」についての評はまた後日としよう。
 

【2016年】独断映画ランキング【面白かった作品】

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

 

 以下、本年父が年賀状に記載しました『2016年見た独断映画ランキング』です。

※父は毎年勝手にランキング付けして、

年賀状に書きつけておくる習慣があるため、

そのデータをこちらのブログにも掲載します。

 

  せっかくなので当ブログでも紹介した作品については★マークをつけました。興味を持たれた方は過去記事も参照ください。(現在のブログの性質上、めちゃくちゃ軽くしか触れてない作品にもつけてます。つけ忘れや誤解もあるかもしれませんがご了承ください。)

 

 本年も【父と娘の映画ブログ】をよろしくお願いいたします。

 

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(日本映画)
 1、淵に立つ
 2、君の名は。
 3、葛城事件  ★
 4、この世界の片隅に
 5、湯を沸かすほどの熱い愛
 6、64ーロクヨンー ★
 7、ハッピー・アワー
 8、怒り ★
 9、オーバーフェンス ★
10、ピンクとグレー

(外国映画)
 1、リリーのすべて
 2、ブリッジ・オブ・スパイ
 3、レヴェナント 蘇りし者
 4、ヘイトフル・エイト
 5、山河ノスタルジア
 6、キャロル   
 7、ボーダーライン
 8、ハドソン川の奇跡  ★
 9、トランボ ハリウッドに最も嫌われた男  ★
10、ブルックリン ★
  

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   追記。 この年末年始及び三連休で父の同人誌データを大量ゲットしてきたので、今年は定期的にそれらの記事も掲載していきます。

 

追記の追記。 娘の私は今年も思いつきで映画や家族にまつわる話を書いていこうと思っています。タグ付けも覚えたいところではありますが、このあたりは明言しませんw或る日突然タグがついたら娘頑張ったなぁと思っていただければ幸いです。←面倒くさがりなデジタル音痴ですみません。。

 

今年もがんばっていきまっしょい


年末年始に親子で愛を学ぶ〜ジュリア・ロバーツとDV夫の攻防

 

  娘です。 案の定、更新が滞ってきましたこのブログ。いや、まさか父がここまで遅筆とは思って見なかった。なんでもいいと伝えたのですが、やはり難しいようです。

 というわけで、娘の私も11月からなかなか風邪が治らず、私自身も更新がままならず申し訳ありません。が、アクセス数、700を超えました。

 更新していなかったのにチェックしてくださってるファンの方のため年末に一本だけ更新します。年賀状もかけていませんが、まあ、ここまできたらブログの一本くらい一緒ですよ、わっはっは。

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   今は家を出ていますが、実家は夜型生活でした。そのため、年末年始には深夜映画を小学生の頃から親子で見ていたりもしました。そして、毎年年末年始になぜか流れるこの映画。最近はお笑い番組などに流されて見かけなくなってしまいましたが、年末年始になるとやはりこの映画が今でも見たくなるのです。

  ジュリア・ロバーツ演じる主人公は潔癖性な夫によるDVに悩んでおり、一念発起し、苦手な水泳をこっそり習い、自身を事故死に見せかけて失踪する。新しい生活を満喫する主人公だが、夫の陰に怯える日々。一方で夫はひょんなことから失踪の疑いを抱き、探偵を使って居場所を突き止める。そして隣人の男性といい関係になってきた主人公を見つけ出してしまう…というのがストーリー。

   正直、小学生が見る映画ではないと思いますが、ま、小学生なんて背伸びするのが常なので、全然イケます。毎年DV夫に見惚れていました。

  あのジュリア・ロバーツがこんな陰のある役を演じたのも確かに見所なんですが、夫が怖いのなんのw爆笑モノです。潔癖な男はダメだなとこの映画で学びました。

  この夫、あるクラシック音楽が好きで、これが彼のテーマ曲にもなっており、主人公(及び観客である我々)はこれを聞くと反射的に布団を被りたくなるといううまい演出。また、同様に、潔癖性がゆえにタオルや缶など決められた『定位置』から外れると許せずつい片付けてしまう夫であるため、それらの小道具が『定位置』にあるのが映るだけで彼の存在がわかり、夫がいつ出てくるのかビクビクして布団を被りなおさなければならなくなる徹底したマゾ映画であります。

  一応、新しい生活で仲良くなる彼とか夫以外の男性も出てくるのですが、当然ながら我が家では圧倒的に夫が人気でした。でも逃げても逃げても追いかけてくる夫にここまで愛してくれりゃ本望だよねと親子でポテチをつまみながら語っていたものです。(あれ、違ったっけ?) 

 私自身、ジュリア・ロバーツの代表作である『プリティ・ウーマン』が大っ嫌いで、再視聴に耐えない映画と思っているのですが、この映画については毎年の視聴で、結末まで知ってるはずなのに、それでも毎年チャンネルを合わせてしまう立派なエンタメ作品だと感じています。いや、ホント、夫すごいよ。体を張ったあのジュリア・ロバーツを軽々食ってるわけだし、立派な夫だよ、私はこんな夫、無理だけど。

最近は星野源に代表されるひそかな肉食男子に人気が集まってるから、これから特にこの夫、人気だと思う。見直されていいと思うの。

 そんなわけでこの年末年始、もし放送されるならぜひ見てみてください。きっといろいろ思うところがあるはずですよ!オススメです☆

それではみなさま、よいお年を♪

 追記。来年年始には父に書かせるか、年賀状の見た映画のランキングを転載します。またしばらくお待ちくださいm(_ _)m

 

読書の秋、邦画の秋〜怒り、少女、オーバー・フェンス、だれかの木琴。

 

   9月に入って読書の秋さながら、小説原作の映画化作品の封切りが頻発している。その多くが水準以上の出来で、春には「64―ロクヨン―」の公開があったりして今年度は邦画の豊作の年に違いない。

  まず紹介するのは井上荒野原作の「だれかの木琴」。監督は名匠東陽一。この監督は原作ものには定評があり、古くは「もう頬づえはつかない」(79年)や「四季・奈津子」(80年)から最近は「わたしのグランパ」(03年)「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」(10年)などの話題作がすぐに思い浮かぶ。そういえば「橋のない川」(92年)の再映画化にも携わっていたか。

『だれかの木琴』予告

 「だれかの木琴」はタイトルも曰くあり気だが、内容も劣らず変わっていて、ごく普通の主婦のストーカーへの変貌がシュールなタッチで描き出された佳品であった。小説に比べると心理描写が難しいのが映画だが、主役を演じた常盤貴子のたたずまいが妖しく官能的で、サスペンス映画といっても良い程にハラハラドキドキさせられた。

だれかの木琴 (幻冬舎文庫)

だれかの木琴 (幻冬舎文庫)

 

    主演女優の演技といえば「オーバー・フェンス」の蒼井優も負けてはいない。白頭鷲だったかな、その求愛ダンスを踊るところなどはこの映画の肝にもなっているように思えて絶品だった。


「オーバー・フェンス」予告編

  この作品は5回芥川賞候補にノミネートされながら獲得するにいたらず、遂には自ら命を絶った悲運の作家・佐藤泰志の函館三部作の最後を飾る力作である。前二作「海炭市叙景」(10年)と「そこのみにて光輝く」(14年)が共に映画雑誌の年間ベストテンに選ばれており、今作への関心もいやがうえに高まろうというもの。

   結果として、僕自身、この作品は大いに気に入った。ここしばらくは「マイ・バック・ページ」(11年)や「苦役列車」(12)などの原作ものの映画化が多い山下敦弘監督は内外からのプレッシャーにも負けず、期待通りの作品に仕上げてくれた。前二作の如何にも文学然とした暗鬱な内容とは異なり、今作はどこにでもいそうな不器用な男女の恋愛が山下監督お得意の人間臭い登場人物を散りばめられて等身大に展開する。この映画の持つある種の軽味に苦言を呈する映画仲間がいるが、僕はこの軽やかさはこの映画の持ち味であり大事だと思う。この作品の屈折振りは、感情の起伏が激しい自分のことを自ら「ぶっ壊れている」と表現する蒼井優演じる「さとし」(彼女曰く、頭の悪い親が付けた名前とか)のキャラクターの造形で十分である。 

黄金の服 (小学館文庫)

黄金の服 (小学館文庫)

 

   また今秋、最も注目を浴びた作品は「怒り」であろう。原作吉田修一、監督李相日のコンビは、公開時にはベストワンの評価を得た「悪人」(10年)に次いでのもの。何といっても出演者が豪華で尚且つ素晴らしい。犯人探しのミステリーなのだが、物語と共に役者陣の演技合戦からも目が離せない。


「怒り」特報

  東京篇では妻夫木聡綾野剛、千葉篇では渡辺謙松山ケンイチ宮崎あおい。また沖縄篇では森山未来広瀬すずといった有名どころが濃密な人間ドラマを演じている。

  この三地域のドラマが平行に描かれる作りは分かりやすく、映画的に原作の内容が上手に取捨選択されているように思えた。上映時間は142分でやや長めではあるが、この時間内で三か所のドラマが過不足なくスピーディーに展開出来たのは何と言っても脚色の功績が大であろう。

  この映画にはそれぞれの話にインパクトのある見所が挿入してある。好青年・妻夫木は文字通りの体を張ったゲイ演技、嘗ての国民的女優・宮崎あおいは頭は少々弱くても気持ちの優しい風俗嬢役、そして最大の衝撃は今が旬の若手女優の筆頭広瀬すずの凌辱シーン。これらが実にバランス良くエピソードを形成し作品に膨らみと味わいを持たせている。この三人がそれぞれ犯人らしい男と交流するのだから映画が面白くならないわけがない。
  顔を整形して逃亡する容疑者三人を綾野剛松山ケンイチそして森山未来が演じるのだが、真犯人探しと共にあらぬ疑いをかけられた無実の二人の悲劇の行方も見所になっている。整形後の犯人の顔写真にこの三人が三人共によく似ていて、誰もが真犯人に思えてくるから不思議だ。これは映画ならではの面白味で文字で語る原作小説ではどのように巧みに描写しようとしても難しいところであろう。

  タイトルにもなっている〈怒り〉とは何なのか考えてみたい。この三つの物語からはまずはゲイ差別や障害者差別、基地問題等で苦悩する沖縄の不条理が思い当たる。こういった日本の社会が抱える差別や貧富の差、不条理に真犯人の人格形成は無縁ではなさそうだ。真犯人の心の闇は常人の手には負えないほどに膨大な負のエネルギー量を有してしまっている。人間の心根は誰にも分からないということだろう。日本社会の病みがこの犯人、モンスターを育て上げたということなのか。〈怒り〉はどのようにも社会と向き合うことが出来ない自分に向けての〈怒り〉でもあろう。この映画の中に、主題としての〈怒り〉そのものに言及した描写はない。我々観客一人一人が〈怒り〉とは何だったのか推察するしかない作りになっている。この映画が類いまれな問題作である所以である。真犯人が誰なのか、〈怒り〉とは何に向けてのどんなものなのか、より多くの映画ファンに見極めていただきたいものである。

怒り(上) (中公文庫)

怒り(上) (中公文庫)

 

   湊かなえ原作の「少女」は、本田翼と山本美月が主演ということで期待して見に行ったが少々残念な出来だった。話が多岐に亘っていてどうみても上映時間119分では収まらない内容。 


『少女』予告編

  色んなエピソードが最後に収束する作りは原作譲りだったか。映画は120分前後の上映時間という縛りがある反面、小説は何十ページでも何百ページでも作者の思いのままである。長編小説を119分の映画脚本に纏めようとした結果、省略の度合いが過ぎたりエピソードの描写が舌足らずになったりして、かなり荒っぽい話の進展具合になっている。こういうミステリータッチの布石が必要な小説はカットする部分が難しいことを痛感。「ソロモンの偽証」(15年)や「64―ロクヨン―」のように前篇、後篇二作品に分けるとかもう少し工夫をしないと全体的に未消化の場面が目立って勿体ない事甚だしい。彼女たちの人格形成に重要な家族の描写がほとんどなかったり、盗作騒動を起こす教師はいったい何者なのか、行き当たりばったりの描写が頻発する。そうそう映画が終盤になってアノ稲垣吾郎ちゃんが登場してきて重要なエピソードに絡んでくるのだから、驚くのなんの。それでもそこそこ楽しめたのは仕掛けが幾重にも張り巡らされた原作の面白さを感じられたからであろう。ヒロイン二人の友情物語の側面にも感じ入ったので、近いうちに原作小説にも目を通してみようかと思っている。 

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)

 

 

 

『シアター・プノンペン』から観るミニシアターの悲喜

 

  「シアター・プノンペン」予告編

   しばらく前に見た「シアター・プノンペン」はガチガチのミニシアター映画だった。名古屋地区上映館は座席数50ほどの映画ファン好みの超小ぶりな名物シアター。この映画館はアジア映画を中心にアート映画からカルト・ムービーまで取扱い、上映作品の面白さ、幅広さには定評がある。

  この作品、東京では老舗の岩波ホールの公開作品ということもあるし、久し振りの本格派の名画上映でさぞ賑わっているのではと思いきや興行面では思いの他に不振だったとか。確かに僕が出向いたのが午後2時台の一番見やすい時間帯だったのにもかかわらず観客数はといえば10名にも満たなかった。

  劇場スタッフの話を聞いてみると昨年9月開催の地元の国際女性映画祭で上映されていることが不入りの原因になっているとのこと。

 ただ、東京は事情が違うようで、2年前の東京国際映画祭でこの作品が「遺されたフィルム」という原題で上映されているそうなのだが、東京・岩波ホールの本興行ではその影響はほとんど無く、そこそこのヒットを記録しているらしい。

東京の懐の深さは驚くばかりで、名古屋のような地方都市(?)では、事前に特別上映や試写会があったりすると映画ファン層が薄いので興行成績の面では致命的になることが多いみたいである。

  この手の作品に興味を覚える映画ファンは我が都市には1000人もいないのではなかろうか。いや1000人以上いても幾つかある名画館に分散したりすれば、観客数が100人200人ということもままあることのように思われる。ガチガチの名画ファンではなくても、ちょっと変わった映画にかすかにも興味を覚える人たちが3000人とか5000人とかいれば、ミニシアター関係者もかなりの冒険ができるはずなのだが、現実はそんなに甘いものではないようだ。

  もう30年以上前になるが、僕がミニシアターの担当をしていた頃はライバル館がほとんど無かったので話題作を一手に引き受けて上映出来たのでラッキーだった。それでも興行予想を会社に提出する際は、土曜日150人日曜日200人平日100人、週計で850人の観客動員を基本線にしていた。そして多くは2週間上映であった。

   華やかな映画業界でも裏方のことなのであまり知られてはいないが、映画館経営も商売なので一般的な会社員同様に計画数字もあれば上司への報告もある。映画賞を獲得していたりして話題性がある作品の場合はその2割増しとか、またより地味な内容の作品であれば2割減の数字で予想表を提出すれば上司もこんなものだろうと納得してくれたものだ。

トリュフォー監督の「緑色の部屋」やフェリーニ監督の「オーケストラ・リハーサル」、鈴木清順監督の「チゴイネルワイゼン」などがその当時に扱った作品である。これらの作品を上映できたことは幸福なことだったと今も思える。 

緑色の部屋 [VHS]

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オーケストラ・リハーサル [DVD]

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ツィゴイネルワイゼン [DVD]

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     ただ、この名画館が老朽化のため閉館になったので次の異動先は何と洋画東宝系の駅前メジャー館。落差が激しい。すぐに「南極物語」の上映がはじまり、一日4000人とか5000人だったかなともかく凄まじい集客数で、ミニシアター経験支配人としては驚いたことを覚えている。

南極物語 [DVD]

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  ミニシアターなら一週間で1000人の動員数があれば大ヒットで新聞マスコミに売り込みが図れるほどの大事件。それが、メジャーなヒット作品となると一日で5000人前後の動員数が連日つづくというのだ。翌年にはジャッキー・チェンの「プロジェクトA」やスピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」などの話題作も扱うことになった。こんなバケモノ映画との付き合いは苦手だったので、上司に相談して翌年には系列館の新たなミニシアターに再度異動させていただいた。 

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     バケモノ映画といえば、ここのところ、「シン・ゴジラ」や「君の名は。」の動員数が凄すぎる。「君の名は。」の入場者数が1000万人を超えたとか。それだけの話題性のある映画なので致し方ないのかもしれないが、僕が映画を見出した頃はファンの嗜好はもう少しばらけていたと思うがどうだっただろう。妻夫木くんや宮崎あおいさんや広瀬すずちゃんが奮闘努力している「怒り」や蒼井優が重い役柄に挑戦している「オーバー・フェンス」の興行成績が気になるところだ。クリント・イーストウッド監督の「ハドソン川の奇跡」も期待以上の出来だったのに空席が目立っていたので心配でしかたがない。さほどの作品ではなかったが、数日前に見た「真田十勇士」も日曜日の真昼間にしては場内が閑散としていた。ロビーはどこのシネコンも人で溢れていても、動員状態は偏っているのだろうな。 


「怒り」予告2

 


「オーバー・フェンス」予告編

 


『ハドソン川の奇跡』特別本編映像

   ミニシアターの話から、少々愚痴っぽい話になってきたので軌道修正。

 「シアター・プノンペン」は僕もまったく見た記憶がないカンボジア映画。1970年代半ばに台頭したカンボジア共産党クメール・ルージュの圧政の真相を描こうとしながら親世代に気兼ねしたものか、ファンタジーやメタファーに逃避した印象を強く感じる作品である。隣人同士が戦うこともある内乱の悲劇が、映画の作りにも作用しているように思われた。当時の極限かで皆必死で生きてきたはずなので、軽々しく批判してはいけないというところであろうか。

  恋愛映画であり青春映画であり、また過去の悲劇を告発する映画でもあった。2時間弱の上映時間では内容が多岐にわたり過ぎて未消化の部分も多くあったようだが、首都プノンペンの復興の様子はスクリーンを通じてよく伝わってきた。あまり馴染のないカンボジアという国の現状を知るには最適な映画のような気がした。国内では記録的なヒットを記録しているとのことで、この国のすべての世代が楽しめる内容にしてまずは成功した作品と言えよう。映画はまずは自国の観客を対象として作られるものだからだ。ラストシーンの大団円の歪みはこの映画の隠し味と言えるのではあるまいか。我々日本人から見れば、最大の注目点である。

  そうそう、「シアター・プノンペン」との邦題が素晴らしいと映画の話をし合った仲間が指摘していたが、たしかに原題の「遺されたフィルム」よりはずっと良い。廃墟になっている映画館が重要な役割を果たしているので尚更である。

 

 

たまには漫画の話〜映画と漫画

 

  父の筆が相変わらず止まっているようです。(すみません…)先日実家に戻ったときに話をしたら、映画友だちとの集まりで話題になっている『君の名は』が話題に上がったこともあり、確認も含めて2回も見たよーとドヤ顏でがっつりネタバレしてくれました。そんなに語れるならブログを書いてくださいと頼んできましたが、相変わらずです。

  そんなわけで私だけで何を書けば良いのかわからず、もう意地でも私自身のテリトリーと映画を絡めてやろうと躍起になっております。ここ数日、なんだかよくわからないですが、急にアクセスが増えたので、これを励みにコツコツ書いてればそのうち父ちゃんも帰ってくるでしょうw

  そんなわけで、漫画ですよ、漫画!ここのところ子どもが寝たあとでひたすらネットの無料漫画を読んでいます。一巻だけでも十分面白いですよね。いい時代になったものだ。

  私自身、漫画が好きで、高校時代は父親が夜どこかに出かける際に最寄りのブックオフまで連れて行ってもらい、1〜2時間ひたすら漫画を立ち読みしておりました。またそんな習慣があったため、大学時代には大学が休講にでもなるとブックオフに行き、最大で8時間くらい立ち読みしたことがあります(馬鹿ですね〜。)

   なぜそんなに漫画にはまったかといえば、まあ、友人の影響も大きいのですが、父の影響も大きいと思うのです。

   父は映画好きですが、映画好きなため、映画化された漫画なども読みたがります。そのため実家には本が溢れています、漫画が溢れています。父が率先して買ってきていたのに私が便乗してきたからです。結婚した今でも漫画を買っては読み飽きたら実家に回す…を繰り返しています。父のせいだ、父のせいにしよう!

  私が父と映画と漫画の兼ね合いで最も印象に残っているのが『ハチミツとクローバー』です。近頃では実写映画化されると原作漫画ファンが恐怖の悲鳴をあげるのが日常となっていますが、この『ハチクロ』は原作ファンもそれなりに納得した上、映画を主食にしている父のような映画ファンにも非常に納得いく非常にまれな作品でした。

ハチミツとクローバー Blu-ray スペシャル・エディション

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   中心人物となる大学生なのに幼い儚い雰囲気を持つ【はぐちゃん】を蒼井優が、また主人公?であり語り部?のフツーベクトルの青年【竹本君】をジャニーズの櫻井翔が演じてたわけですが、【森田さん】も【真山】も【花本先生】も若手実力派できっちり固めてすごくいい映画に仕上がっていて、どうにもこうにも父が感激して、「原作漫画が読みたいから金を出すから買ってきてくれ」と。もう私の本領ですから、全巻大人買いしてきましたよ。 

   ところが。羽海野チカ作品の特徴として、メインになるサブキャラでもさらーっと出てきて小ネタジャブを何発か見舞ったのちにメインキャラに昇格し、気がつけばみんなキーパーソン化するような気がしているのですが、ジャンプ漫画や青年漫画を主にチェックしていた父としてはこの少女漫画のスタイルが合わなかったらしく、せっかく全巻揃えたのに頓挫していました。ま、私が読み込んで、さらには従兄弟連中にも喜ばれていたので無駄はありません。私は漫画が好きで、父は映画が好きなのです。

※しかし、映画人気に便乗した実写ドラマはひどかった…はぐちゃんも蒼井優が演じたはぐちゃんの方が成海璃子より儚くてやっぱり芸歴の差が出たのかなあとか。特に理花さん…演じた瀬戸朝香は元気はつらつって役が多かったし、そのイメージから抜け出せなくなって困りました。。

ハチミツとクローバー DVD-BOX

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    またつい最近では『ちはやふる』や『俺物語!!』がよかったようで原作漫画が読みたい、と。 

 

俺物語!!(通常版) [DVD]

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   私自身、  『ちはやふる』は本屋で一話を試し読みしてしていいなぁと思いながら、大作になりそうな気配だったので購入をためらっていたのですが、漫画喫茶で読んだらうっかり主人公の両親が華やかに芸能活動をしている姉の影に隠れがちな主人公の活躍をスクラップにとっていてくれたあの絡みで泣きそうになってしまったので恥ずかしくて購入を決めた思い出深い作品であります。   

ちはやふる(2) (BE・LOVEコミックス)
 

※あれ、2巻だっけ…?実家に貸し出してて覚えてないや。。

   一方 、『俺物語!!』は(まーイロモノっちゃあイロモノだし、とりあえずいいかぁ)と思っており、手を出していなかったのですが、父からリクエストがあったからには応えなくては!と大人買いして楽しみました。が、頼んだ当の父は読むのが本当に遅い上、映画を最優先にしているのでおそらくまだ読んでいないかと。本当に損をしてる気がします。まあ、たくさん読むものがあって楽しみがたくさん残っているという前向きな見方もできるっちゃできますけど、悠長にしていたら、『俺物語!!』、いよいよ完結と本屋で新刊を見かけました。私はこの週末に楽しもうかと思っています。 

俺物語!! 13 (マーガレットコミックス)

俺物語!! 13 (マーガレットコミックス)

 

   『俺物語!!』猛男役の鈴木亮平はいい役者さんですよね。NHKでやってた神谷明との対談もすごく面白かった!二人とも大好きなので録画して見ました。


『SWITCHインタビュー』 鈴木亮平 VS 神谷明 (前半)

  ただ、鈴木亮平といえばやっぱり『変態仮面』ですよね。子どもの頃、バカだなぁと思いながらジャンプで読み続けていました。しかしこの『変態仮面』もずーっと楽しみにしていながらこちらもまだ見ていないのです。録画して貯めてる作品が多くて、なかなか困っております。まー子どもが小さいうちは諦めるべきかもしれないですけど。

HK/変態仮面 [DVD]

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…今更とはいえこの漫画、、表紙だけ見てもアホやなぁ。。 

 あ。アホで思い出したけど、クラウザーさんも映画がきっかけで漫画を買いました。

 鈴木亮平もすごいけど、実写の神といえば松ケンだなぁ。あーでも松ケンとか書くと『デスノ』とか『るろ剣』とか芋づる式に連想されてきた、いかんかった、いかんいかん。 このあたりはまた次にしておこう。

  さて。今回の締めとして、買わなかった作品 にちょっと触れようと。『進撃の巨人』も公開前は父の購入意欲をそそっていました。が、結局買わなかったのはなぜか。映画が面白くなかったから。私は『進撃…』だけは買いたくなかったので(立ち読みして意味がわからなかったというか、全然面白さが伝わって来ず)ファンの方々には申し訳ありませんが、映画が大コケして本当によかったと思った次第であります。わっはっは。

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  なんだか全く深くない話で申し訳ないですが、たまにはそんな日もある!でも、まあ、ブログって自分の備忘録的なところも(私には)あるので、次回はきっともう少しまとまった落ち着いたネタが書ける…といいな。次回は漫画よりも本にしたらもう少し書けるんだろうか。。 

  でもまあ、次は父のターン(のつもり)です!もう原稿遅くても更新してやらないんだからねっ、誤解しないでよねっ!!(そんなわけで娘のライフはもうゼロよ…父よ、早く降臨してください…)

 くだらない記事にお付き合いいただきありがとうございます。それではではではおやすみなさいませ。  

秋にオススメしたい恋愛映画〜『素晴らしき日』

 

  娘です。

  父がブログの進め方について悩み始めてしまい、更新が滞っております。楽しみにされてる方がいるかいないかわかりませんが、しばらくご無沙汰してしまい、申し訳ありません。ただ、父からは大作を執筆中で週末までにはなんとかなりそうと連絡がありましたので、また近々父の文章も掲載できるかと思います。

  さて。私自身子育て中でネタを仕込めないのでろくなことが書けないんだけどなぁと悩んでいたところ、恋愛についてのこんなブログがトップにあって、急に恋愛モードに入ったのでw恋愛ベッタベタな秋の一作について書いてみちゃいましょー。頑張るぞー。ちなみに読んでたブログは→http://papuriko.hatenablog.com/entry/2016/09/13/184709( 勝手にリンクしちゃったけどよかったのかなぁ。もしもダメな場合はコメ欄で指摘いただければ幸いです。) 

…いつもながら前置きが長いですが、紹介したい作品はこれだ!↓ 

   もう、画像を見ただけで秋冬っぽいっしょ?!素敵でしょ?!

   わが町のビデオ屋にこのポスターが貼ってあって、本当に本当に欲しかったんですが、勇気がなく貰いに行かなかったのが未だに悔やまれる思い出のポスターだったりします。。当然本編でも使われたシーンなんですが、個人的にこのシーン本編、短かったんだよなぁ。もう少し尺があるともっと素敵だったと思うのよ。。

 ま、私の妄言は置いといて。

  話の筋としてはミシェル・ファイファー×ジョージ・クルーニーの働くバツイチカップルの子育てラブコメといえば通じるはず。しかも舞台はニューヨーク。さらに描かれるのは彼らが出会うその日たった1日。もう、なんというかテンプレ中のテンプレですが、それがいいんです!

  クルーニーがドラマ『ER』のダグラス・ロス医師役で一世を風靡し始めたころ、狙いすましたかのようにバツイチパパ役を演じており、子どもと絡むシーンのデジャヴ感といったらありませんでしたが、当時ロス先生が大好きだった私はメロメロでした。今でも思うけど、クルーニーには素敵な女性でも男でもなく、子どもといるのが一番似合う。かっこよさが引き立つ気がするの。(…でも『トゥモローランド』ではそんなでもなかったな、やっぱり大物になりすぎた?) 

   話を戻して。ミシェル・ファイファー×クルーニーでも結構話題性があったと思うのですが、ミシェル・ファイファーの息子役はアレックス・D・リンツと『ホーム・アローン3』で天才子役のカルキン坊やの後継として注目を集めた子役の映画デビュー作だったりもしたのでその点でも注目を集めたようです。

  うちの父親なんかはミシェル・ファイファーは『バットマン』シリーズのキャットウーマン役でファンだったらしく、また息子役のアレックス・D・リンツがカルキンくんの後継ということは知っていたのに、ジョージ・クルーニーは誰だ、この男は?と思ったというくらい当時はクルーニー<D・リンツの知名度でした。ちなみにこの息子くんのお気に入りのおもちゃの車はあんなことをしたり、あるときにはこんな使われ方をしたり、母ちゃんを地獄にも天国にも導く重要なキーアイテムでした。本当に小さなことですが、バツイチ子持ちカップルの日常を描くためのキーアイテムとしては非常によいチョイスだと今にしてみれば思えたり。

  またこの作品のさらなるキーとなる小物といえば、【携帯電話】。個人向け小型携帯電話が普及し始めたころの作品なので、今からしたら携帯電話がでかくて重そうで、スマホしか知らない若者はその携帯のゴツさをぜひチェックしてほしいものです。ただ、このゴツい携帯電話を使った主人公たちの冒頭のやりとりがニューヨークで働く男女の勢いや小洒落た雰囲気をうまく醸し出していて印象に残っています。

  この作品のマイケル・ホフマン監督は近年『モネ・ゲーム』を監督したそうで、こちらもコリン・ファース×キャメロン・ディアスのダブル主演パターンな上、脚本もクルーニーが『オー・ブラザー』でお世話になったコーエン兄弟が書いてる…のに…なんで私は見に行かなかったんだ…(新聞でチェックはしたんだけど、ちょっと余裕がない時期だったんだよ、あれは。。)ただ、ざくっとレビュー見た限りそこまで良作とも伝わってこないのでまた落ち着いて見てみようと思っております。キャストも監督も脚本も良さそうなんだけどねー。でも考えてみれば今回紹介している作品もまあ、そこまで評判を聞く作品でもないから、そこらへんは差しひいて考えるべきかもしれないしなあ。なんにしてもまだ見てないからなんとも言えないし。

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    そんなわけで。伝わったか伝わらないかわからない上、ちょっと(?!20年前をちょっとと言えるのか)古いですが、秋冬に恋愛映画でほっこりしたいときにいい作品だと思うので、興味がわいたらまたチェックしてみてください。

   それではおやすみなさいませー。

 

 

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』〜『ローマの休日』の脚本家のお話

 


映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」予告

    最近観た映画の中で、とりわけ見応えがあったものは「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」だ。この映画は、1940年代後半から50年代にかけてハリウッド映画界を震撼とさせた赤狩りの時代を共産主義者として理不尽な弾圧を受けながら絶大な筆力で闘い抜いた脚本家ダルトン・トランボの感動的な実話だ。

 …という風に書き出すとどんな深刻な映画なのかとしり込みをする人がいるかもしれないが、このトランボさん、実はあのロマンティックな名画「ローマの休日」(1954年公開)の脚本家でもあるのだ。あの脚本を書いていた時がまさに迫害を受けてハリウッドから追放されていた時期であり、友人の脚本家の名前を拝借して見事アカデミー賞原案脚本賞を獲得したのだ。

ローマの休日 (名作映画完全セリフ音声集スクリーンプレイ・シリーズ)

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  • 作者: ダルトン・トランボ,イアン・マクレラン・ハンター,ジョン・ダイトン
  • 出版社/メーカー: フォーインスクリーンプレイ事業部
  • 発売日: 2012/01
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

   この映画には「ローマの休日」関連のエピソードもたくさん盛り込まれていて、「ローマの休日」に魅せられた人であればとにかく愉しめる作品だろう。家族揃って満員の観客に混じって鑑賞するところとか、アカデミー賞受賞の報せに歓喜するシーンとかが効果的に挿入されている。それにしても、あの「ローマの休日」が、脚本完成時の最初のタイトルが『王女と武骨者』だったとは驚き。友人や長女のアドバイスでようやく、「ローマの休日」に変更されたとは面白い話だった。

   多くの映画人の自由が奪われたいわばハリウッドの汚点ともいえる暗い時代を背景にしていながら、この映画が清々しく感じられるのには理由がある。

 まずは家族映画のテイストがふんだんに盛り込まれていること。奥さんの内助の功も良かったが、長女を重要な場面に何度も立ち会わせ生き証人に設定したところなど巧みで感心するしかない。この一点で映画がいちだんと厚味を増したようだ。当のトランボは1976年に70歳で亡くなっているので、長女たち実際の家族のアドバイスなくしてはこの映画での事細かな家庭内ドラマの再現は難しかったはず。実名での活動が出来ないトランボ氏が偽名でジャンル問わず脚本を量産する際の家族の協力態勢もユニークだった。

 バスタブ内でタイプを打ったり、浴室を書斎代わりにするトランボ自身の風変わりな個性もこの映画のポイント・アップに貢献している。自らの信念に基づき公聴会での証言を拒む強面な反面、同様に不当な排斥を受けた脚本家仲間たちに金銭的な援助をしたり仕事を分け与えたりした気遣いにも心打たれる。仕事に励むあまりに家族との関係が疎かになった際にも、しっかりと自らの非を認め関係修復に努める。人間味あふれるトランボ像の造形が、この映画の魅力につながっていることは誰もが認めるところであろう。

  この映画の優れている点は以上のようにいくつも思いあたるが、僕がもっとも心揺さぶられたのはその抵抗の仕方。仲間は不法な弾圧を法廷に訴えるべきだと主張するのだが、トランボはその訴えを断固拒否する。彼が選んだ方法はというとひたすら脚本を書き続けること。この時点で彼はハリウッド追放の身。大手の映画会社との関係は絶たれているので、小さなB級映画製作会社に自ら出向いて、なりふり構わず脚本のオファーを受けるところが印象深い。超大物脚本家なので最初相手側は訝しがるが、報酬は低額で優れた仕事を短時間でこなす実力者の彼をすぐに重宝がる。もちろん偽名のままでの執筆なのだが、娯楽映画を中心に脚本の依頼が殺到するところなどはこの映画の見せ場の一つにもなっている。

  危険分子としてハリウッドから追われていても、その実一部映画人のバックアップで裏では多くの映画作りには関与していたというのは痛快な話だ。それもこれもダルトン・トランボの筆力あってのこと。ハリウッドから放逐されていた期間に、前述の「ローマの休日」ともう一作「黒い牡牛」(1956年公開)でアカデミー原案脚本賞を偽名で受賞しているのは天晴としか言いようがない。ハリウッド追放の不条理な取り決めが実態を無くした瞬間である。 

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  その後、気骨ある俳優カーク・ダグラスが自らのプロダクション制作の「スパルタカス」(1960年公開)でトランボに声をかけ、ようやく実名での業界復帰を果たすことになる。当時のケネディ大統領がお忍びでこの映画を見て、「いい映画だ。大ヒットする。」とのコメントを報道陣に残したのがTVニュースで流れ、トランボを排斥し続けた陣営がショックを受ける逸話も効果的で溜飲が下がる。もちろん、映画は大ヒットを記録。トランボの脚本家としての実力は折り紙つきなので、赤狩り監視下のもとでも機会があれば一緒に映画作りをしたいと水面下で思っていた映画人は大勢いた証左である。変わり者の映画監督オットー・プレミンジャーが「栄光への脱出」(1961年)の脚本依頼をしたのも同時期であった。

 

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  絶大な筆力のみで強大な勢力と闘って勝利した脚本家の稀有な骨太ドラマである。この映画は1970年の脚本家ギルドの功労賞受賞のスピーチがラストになっているので、正式な意味での自伝にはなっていない。自由な活動が可能になった末の初監督作品「ジョニーは戦場へ行った」(1973年)や最後の脚本作品「パピオン」(1974年)には触れられていないので、この映画が拘ったのは言論や思想の自由とトランボ一家の名誉回復であろう。不名誉な汚名のため不自由な生活を強いられた妻が「スパルタカス」公開後、思わず呟く「ようやく終わったのね」の言葉の重さが見る者の胸を突く。

  脚本家ダルトン・トランボの復活の話にストーリーが集約されているので、ハリウッド追放のより暗い側面は分かりやすく図式化された描写に終始し、潔く省略してある。

  仲間の裏切りや仕事を干されることでの貧困など深刻な赤狩りの全体像は「真実の瞬間(とき)」(1991年公開)等により詳しく描かれているので、これらの作品に目を通すことがあれば、もっともっとトランボの窮地からの脱却に喝采を上げることが出来るに違いない。

   この映画からは離れるが、僕がダルトン・トランボという脚本家を知ったのは「フィクサー」(1969年公開/監督ジョン・フランケンハイマー)を見てからだ。映画を見はじめて間もない時期で、活劇やコメディなどの娯楽作品を中心に映画を追いかけていたので、偶然出会ってその深刻な内容に唖然としたことをよく覚えている。帝政ロシア時代に冤罪で逮捕されたユダヤ人の無実を勝ち取るまでの闘いの話で、今にして思えばトランボの実像にも通じていたようだ。秘密警察の拷問とか凄まじい場面があったことは漠然とは記憶にあるが、内容のほとんどは失念している。僕の社会派映画への傾倒は、この作品に端を発していることに間違いなかろう。人間の尊厳というものの重要性も感じ取った。映画雑誌の年間ベストテン8位選出には、我がことのように喜んだものだ。

   4年後の初監督作品「ジョニーは戦場へ行った」の公開で、トランボは我々若い映画ファンには神様のような存在になった。この映画の主人公がそうなのだが、肉塊になっても生きつづける不条理はやはり人間の尊厳を抜きにしては語れないものだった。大学の映画仲間とこの映画について意見を交わしたことが鮮明に甦ってくる。この作品は映画雑誌ベスト2位選出。翌年には脚本作品が三本公開になり、どれもが映画好きには堪らない名作ばかり。「ダラスの熱い日」「パピオン」「追憶」。そういえば、「追憶」の後半はロバート・レッドフォードの脚本家とバーブラ・ストライサンドの左翼運動家夫婦が赤狩り旋風に翻弄される場面があって、恋愛映画でありながらトランボの関与もなるほどと思わせさすがの内容である。

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   映画「トランボ」のラストシーンの授賞式スピーチで、トランボはかつての赤狩りの時代を称して、悪の時代・恐怖の時代と語りはじめる。英雄や悪者を探しても意味がなく、いるのは被害者ばかりだと、壇上で力説する。不条理な迫害を時代のせいに出来るのはあの暗黒の時代から50年以上経過していたことが重要で、この映画の立脚点にも大きな影響を及ぼしている。随分と大人の映画である。エンディング・タイトル後のトランボ本人の肉声による家族への感謝の言葉も心にしみる。誠実で寛容な制作姿勢は最後まで一貫していた。

 

 

真夏で出産直前に見た妊婦にオススメしたいような、できない作品

 

 今週のお題が「映画の夏」ということもあり、かつ子どもが誕生日を迎えたこともあり、久々に娘のわたしがしゃしゃり出てみました。(父に頼んだんですが、お題に気がつくのが遅くて間に合わなかったのは秘密ですw) 

  先にも記しているように私自身は映画をあまり見ませんが、数年前、真夏の出産を控え実家に帰っていた際に、父が撮り貯めた地上波CS放送のヤマの中からいくつかの作品を見て過ごしました。

  洋画、邦画、アジア系、いろいろありましたし、小津安二郎とかそれなりに落ち着いた作品もあったし、三谷幸喜とか娯楽系の作品もあった上に他にも何本か見たはずなのですが、印象に残ったのが出産直前に見たこの作品しかありません。

 …出産を控えた中なのにこの作品を見ようとするこの悪趣味加減…

   ただ、作品の予習としてエイリアンが泳ぐ(これは広報で見た)、ウィノナ・ライダーが出るくらいしかなく、シリーズ4作目で惰性作品だろうと侮っていたことこあったのですが、思っていた以上に『エイリアン』シリーズの中では妊婦向け?で良い作品だと思いました。

   何が妊婦向きか。一つには《新種エイリアン》の出産シーンが出てきたりしたので←これがものすごーく勉強になった。出産って本当に大変なんだなぁとか、赤ん坊ってかわいいのかもしれないと新種エイリアンの子を見てやっと実感がわきました。

  エイリアンシリーズなので出産イコール死ではあるのですが、あの凶悪なエイリアンですら汗水涎を流して出産に挑む母親と化していたので、どんな生き物も出産には必死なんだよなあと。人間のハイブリッドとなったという設定ではあったのですが、あのエイリアンが苦しんで子どもを産むんですよ?!すげえ。

( 初代エイリアンは本当に怖かったもんなぁ。でも個人的には2作目が好きです。そしてこのシリーズは人間が一番怖い。)

  あとその生まれてきた子が母親(の血を引く)リプリーという主人公の女性には甘えたり、従来のエイリアンより大分可愛げがある感じでした。これまでよりも大分CGがこなれており、エイリアンの子の造形もかなり可愛く作ってあったと思います。この新種エイリアンの出産シーンはとにかく尺もしっかりしてたし、かなりの見せ所ですし、臨月妊婦の出産の予習にぴったりでしたw

  また、遺伝子操作によって生まれてしまった生命として不完全なエイリアン亜種の子たちが登場し、死んでいくのですが、母親としてやはりこの子たちにもつい感情移入してしまい、切なくなりました。本当に幸いなことに生まれてきた子は五体満足でしたが、母親としてどうするのが子供にとって幸せなのか考えるきっかけにもなりました。 

 …となんとなく殊勝なことを考えたふりしても、臨月でエイリアンを選ぶ時点で単なるゲテモノ趣味ではあるのですが、そういった出産についても学べたり、もちろん娯楽作品としてもハラハラドキドキした、でも雰囲気としてはダークで臨月でなんとなく不安な気分の中意外と悪くなかったので印象に残ってたことこもあり、今回記録にしてみました。

 なお、こんな胎教が施されていたことは夫も子どもも知りません。あまり知らせない方がいいかとも思いますが、まあ、普段からそういう母親をやっていますので、問題ないでしょう(おそらく)

 

 世の妊婦さん及び旦那さんは相方の日頃の反応をしっかり観察して問題ないと判断した場合に自己責任で鑑賞いただきますようお願いいたします。

 

 急ぎで書いたのでまとまりがなく申し訳ありません。引き続き父と、ときどき娘の映画ブログ、よろしくお願いします。ではではおやすみなさいませ☆

 

 

 

  

父、『シン・ゴジラ』を語る ※ネタバレ注意

 

  この夏最大の話題作「シン・ゴジラ」を公開早々に見てきた。物量宣伝のせいなのか大ヒットしているようだ。確信犯的な味付けなので、許容するファンもきっと多いことだろう。しかし僕はこの映画には否定的だ。作品として頭でっかちな内容で物足りず、爽快感がまるで感じられないのが致命的と感じたのだ。

 

!以降、結末までのネタバレがあります。未見の方はご注意ください!

 

  災害のメタファーとしてのゴジラは1954年版第一作目を踏襲しているが、一作目は今作ほど対策本部の描写が突出してはいなかった。危機管理能力に関する政府関係者のやり取りは何処かのニュースや週刊誌で取り扱われていた焼き直し風で、会議室シーンの長いことと言ったら尋常ではない。119分という上映時間からすると当然のように主役であるはずのゴジラの出番が少なくなる。このバランス感覚も気になるところだ。      

 

   また登場人物が多過ぎるのもゴジラ映画の娯楽色を薄める結果になっている。どうみても有事の際のディスカッション映画を志向しているとしか思えない。

   東京湾に突如現れた怪獣がはじめは愛嬌のある顔立ちで奇妙な動きをするので、アレと思っていると上陸後暫くすると突如脱皮…というか変身・進化を繰り返し、見る間に正真正銘のゴジラに変貌する。

 

  この辺りは何が起こるか分からない常識はずれの展開で、正直面白かった。変態前のゴジラは飛び道具を一切持たず、ひたすら動き回るだけで家屋倒壊などの甚大な損害を与える役割を担う。これは地震災害の際の大津波被害後を想像させる。こうなれば、変態後の成体(?)ゴジラ津波とかの災害で破損した原子力施設ということか。

   ゴジラが成体になってからの動きが少なく、遂には東京駅に立ち止まらせてしまうのがこの映画の最も重要な点である。つまりが爆発寸前の原発施設がもし東京駅にあったら皆さんどうしますかとの問いかけが、今回の型破りな〈震災ゴジラ〉の主題になっている。背中から乱れ飛ぶ熱光線はさながら放射能の飛散で、首相搭乗のヘリコプターさえ射落としてしまう。

 


『シン・ゴジラ』予告2

 

  体内に原子炉を抱いているゴジラはそこにいる、否あるだけで脅威になる。自衛隊の活躍シーンが多いのにもビックリしたのだが、現存している(ように思える)特殊車両・特殊機材などを総動員して立ち向かおうとしていたのは、現実的な有事を想定してのことだったのか。このあたりはひたすらリアリティに拘っており、関係者の対策会議の多さ共々辟易とした。

  この映画に好感を持つ人たちは、きっとこのリアリティ重視の場面とかを支持しているのだろう。ゴジラの凶暴な顔立ちもきっと称賛の対象になっているのでは。本筋のニュース映像風な社会派のドラマの部分がもう少し様になっていれば、僕も期待したエンターテイメント性が希薄であっても一定以上の評価を下していたはずだ。

   最後のゴジラの動きを封じ込めてから口から凝固剤を流し込むことで固まらせた手法は、何か大がかりな建築工事現場に立ち合わされたようであまり綺麗な絵ではなくやはり感心しなかった。福島原発の汚染水を閉じ込める氷土壁は数か月前、具合が悪くなったみたいで現状は計画が中断されているはず。今回のゴジラの凝固作戦がこの氷土壁からのアイデアではないことを祈るばかりだ。

 

  この新作ゴジラシネコンではなく、ミニシアター上映でも構わないマニアックさが際立っている。「エヴァンゲリオン」の庵野秀明脚本・総監督と「進撃の巨人」の樋口真嗣監督のファンの人たちには熱狂的に受け入れられる映画かも、とふと思ったりする。まあ、少なくともオジサンの映画ではないことは事実だ。映画的な虚構は、どんな現実的なリアリティにも勝ると今も信じて疑わない。僕としてはワクワクする楽しい映画が見たかっただけの話なのだが。

 

豪華客船《飛鳥Ⅱ》船上映画事情

 

  先日、半ば強制的に家族に誘われて身の丈知らずの豪華客船≪飛鳥Ⅱ≫に乗船、九州日南に向けての三泊四日の花火見学ツアーに参加して来ました。その時の体験を基に今回は息抜きを兼ねた番外編として、≪飛鳥Ⅱ≫船内の映画事情を報告したいと思います。  

 

   船内で映画を見る方法は二つあります。一つ目は6デッキ中央に設けられている船上映画館【ハリウッドシアター】での鑑賞。も一つは船室内でのテレビでの視聴です。

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  まずは【ハリウッドシアター】。座席数はざっと見まわしたところ200強位。もう少し多かったでしょうか。座席はもう豪華仕様で尚且つ前の座席との間隔が十分開いているので座り心地は満点。毎日配布される船内新聞「ASUKA DAILY アスカデイリー」で作品と上映開始時間の紹介があり、夕方から深夜にかけて食事時間に支障がないように同一作品が二度上映されます。 

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  今回の乗船第一日目には北野武監督による話題作「龍三と七人の子分たち」(2015年)の上映があり、新作公開の時にすでに見ていた作品でしたが夕食の後、22時からの回でふたたび鑑賞。前回観た時は期待が大きかったせいか今一つの印象でしたが、今回は内容が分かっているのであまり期待していなかったのが良かったものか、驚くほど楽しめました。北野武の笑わせ方やギャグが細かすぎて観客が置き去りにされかねない危惧のある作品ですね。その点二度目だったので、落ち着いて作品に向かい合うことが出来たのが余計に楽しめた原因だったかも。敵対するチンピラの事務所での攻防の際、単身の殴り込みで前日に殺されてしまった中尾彬の死体が敵味方双方の凶弾を浴びなぶりものにされるブラックなシーンなどに大笑いしていました。

  二日目の上映作品は「ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密」(2014年)。夜になると展示物が動き出す博物館のコメディシリーズ三作目です。

    三日目最後の日は原田眞人監督による「日本のいちばん長い日」(2015年)の上映がありました。 

日本のいちばん長い日 [DVD]

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    二日目の夜も劇場に出掛けようと思ってはいたのですが、その少し前の時間からテレビで「男はつらいよ・寅次郎サラダ記念日」(1988年)の放映があり、結果的にこちらも何回目だったのですが、部屋でゴロゴロしながら寅さんと最後まで付き合うことになってしまいました。シリーズ40作目でマドンナは女医さん役の三田佳子でもう一人三田寛子がヒロイン役で客演。俵万智の短歌集を基にしたような内容で舞台は小諸、早稲田大学で寅さんが講義を受けるシーンが面白かったですね。

 

第40作 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 HDリマスター版 [DVD]

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サラダ記念日

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  【ハリウッドシアター】で上映される作品の多くは、このように誰でもが楽しめる娯楽映画が多いようです。何年か振りに映画を見るような人もいるはずですので、当然と言えば当然です。

    以前乗船した際には、「釣りバカ日誌」シリーズの何作目かを上映していましたし、メリル・ストリーブ主演のコメディ・ミュージカル「マンマ・ミーア!」の時もたしかありました。「釣りバカ日誌」シリーズというと観光バスの車内で見る機会が多いように思いますが、ハマちゃんとスーさんの掛け合いは誰が見ても無難で面白いので団体客対象の映画としては重宝がられているのでしょうね。

    そんな飛鳥の映画チョイスで、今回三日目の「日本のいちばん長い日」の上映にはちょっと驚きました。船内の作品としてはいつになく重い内容のものだったからです。が、これが予想外の感心を集めていたみたいで初日の北野作品とは比べものにならない位の賑わいでビックリ。

   この作品は劇場公開時には見ておらず、今回が初見だったので満を持しての鑑賞。前方二列目の脇の方の席に陣取りました。隣りに誰か来ると注意散漫になるため、自ら少々見づらい座席に座るのがオレ流(?)の映画鑑賞のスタイルです。すぐ後ろの列から刻々と席が埋まりはじめたので正解でした。この作品は力作ではあったのですが話の展開が急激であり過ぎて、映画を見慣れていない観客には分かりづらい内容だったのでは。太平洋戦争終結時の歴史に詳しければともかく、内容が盛り沢山でありすぎて2時間ちょっとの上映時間ではもう少し整理が必要だったのではというのが今の僕の感想です。でも珍しく大人向けの作品で、撮影や俳優陣の頑張りは印象に残っています。特に昭和天皇を演じた本木雅弘の役作りは、難しかったはずなのに見事なものでした。

決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫)

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   【ハリウッドシアター】まで出向かなくても室内のテレビでは終日、何らかの映画は放映されており部屋でも十分に楽しむことが出来ます。10チャンネルでは日替わりで飛鳥独自で拾い上げた作品なのか二本の映画が三時間ごとに放映になり、前述の「寅次郎サラダ記念日」はこのチャンネルで見たものです。ここ以外に既成の有料映画チャンネル二つも受信されていて、もちろん無料で見られます。6チャンネルの「イマジカBS・映画」や9チャンネルの「チャンネルNECO」がそれで、石原裕次郎主演の「影狩り」とか「ターミネーター2」とかがこの期間、これらのチャンネルでとっかえひっかえ放映になっていました。今回は空き時間を作ることが出来ず、残念ながらチャンネルを合わせることは出来ませんでしたが、まさに見放題状態。NHKのBS番組も一般放送共々見られますのでご心配なく。

 

  船旅とはいえ、のんびりとは出来ないのが映画ファンの性分。もう少しいろんなモノを飲み食い出来たのではと思うのと同じくらい、もう少し色々な映画が見られたのではと少々後悔の日々を送っています。次回の乗船はいつになるか分からない豪華旅行ですが、もし次があるようならしっかり計画を立てて最良の映画鑑賞をしたいと思っています。映画を見て、食べて、飲んで(僕の場合は、ソフトドリンクです)、孫と遊んだ夢のような四日間にわたる「飛鳥Ⅱ」乗船映画レポートでした。

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 最近観た映画の中では「ブルックリン」が一押しです。


映画『ブルックリン』インタビュー映像


映画『ブルックリン』予告編

   ニューヨークのブルックリン地区が移民の居住地域ということをこの映画で初めて知りました。1950年代の不況の折に家族と離れ単身、仕事を求めアイルランドから米国に渡ったヒロインの愛と成長の物語と言ったら良いのでしょうか。一件メロドラマ風な設定であっても主人公を演じる女優さんやそれぞれの描写に品位があり見応えが十分。二回アメリカへ渡航させる仕掛けも巧みで、二つの幸せの狭間、故国と愛との選択に心を痛めるヒロイン像がすこぶる新鮮、つらい決断を下した後のラスト・シーンでは涙が禁じ得ませんでした。映画を見る機会が少ない人にも勿論映画ファンにも胸を張って薦めることが出来る一作です。

1960年代映画学科生の自己紹介映画

    娘が得意なジェーン・オースティン絡みでつないでくれたので、少しリラックス出来ました。有り難う。


  ということで本題に入りたいとおもいますが、一口に映画学科と言っても、ほんとうに色んな映画仲間がいて楽しかったですね。入学して間もなく、自己紹介をしながら好きな映画を皆の前で発表し合う授業があり、まだほとんどの人と満足な会話がなかった時期だったので、どんな映画が話題に上るのか興味津々でした。

 

  やはりというか、旬の路線ということで「俺たちに明日はない」や「夜の大捜査線」などのアメリカン・ニュー・シネマ系作品を取り上げる学友が多かったように記憶しています。 

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  我々の年代の学生映画ファンでこれらの既成の体制・秩序に意義を唱えるみずみずしい映画群の洗礼を受けなかった者はいないはずです。まあ鮮度はたしかにありました。十代の映画ファンに人気があった「夕陽のガンマン」などのマカロニ・ウエスタンを挙げた人もいましたが、受け狙いだったことを後日、本人から聞きました。これらのアクション映画は本当に格好良かったので、気持ちは分からなくなかったですね。

 

  僕はと言えば、映画に深入りをするきっかけにもなったJ・L・ゴダール監督作品「男性・女性」「気狂いピエロ」あたりを初めは発表しようと思っていましたが、

少々自分には荷が重いように感じられ、迷いに迷った末に大穴狙い(?)で最終的に「長距離ランナーの孤独」に決定。

 

長距離ランナーの孤独 [DVD]

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  この作品は1963年公開イギリス映画で〈怒れる若者映画〉の代表作。アメリカ映画の新しい波に先んじること5年ほど前に作られたもので、原作小説もこれまた有名。当時のイギリス社会の閉塞状況を見事に表していました。泥棒一家に育った若者の鬱屈した反骨精神がアメリカン・ニュー・シネマの主人公たち以上に僕には近しく感じられたものです。

  

長距離走者の孤独 (新潮文庫)

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  人数は少なかったのですが、ピークを迎えていた任侠映画や市川雷蔵主演作、黒沢明監督作品などの日本映画を推す学友も少なからずいたのにはショックを受けました。僕は大学に入るまで外国映画一辺倒だったので、それまでの邦画に対する偏見を後悔し、この講義以降かなり深刻な日本映画コンプレックスに陥りました。その反動は今日までも続いていて、今もどちらかといえば日本映画の方に好みが偏りがちです。それにしても学友たちの日本映画に関する知識は皆どのように身に付けてきたのか、信じられないくらいに豊富なものでした。

 

  こういった劣等感、マイナスからのスタートがエネルギー源になったせいなのか、その後は凄まじい勢いで遅れを取り戻すべく日本映画を見まくることになります。映画雑誌のベストテン選出名画をはじめ、任侠映画や渡哲也主演のB級アクションもの、しばらくしてはじまる日活ロマンポルノ及び若松孝二監督他の既成ピンク映画の領域まで、新旧問わずその対象は多岐に渡っていました。

 

  繰り返しになりますが、授業は暇だったので、ほぼ毎日のように映画を見ていました。映画の本を読み、学友と映画の話に興じ、映画のことを思わない日はなかったと思います。

 

  そんな日々のなか、専攻コース内の何人かの話の合うの仲間が出来て行動を共にすることになります。5本立てオールナイト企画などに4~5名揃ってよく参加したものです。鈴木清順監督作品の26本連続上映などの熱気は今もしっかりと覚えています。

 

鈴木清順監督 浪漫三部作 DVD-BOX

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  彼らからの影響は計り知れないほど大きく、彼らの推薦映画に時間を割き、又彼らから出来るだけ生の知識を得ることがまずは大事とその頃は思っていました。

 

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  最後に恒例の最近見た映画評。

 

  先日見た「葛城事件」には圧倒された。父親役を演じる三浦友和の怪演は見もの。この手の深刻な家族映画を見るのはいつ以来だろうと記憶をたどってみてもなかなかそれらしい作品に思い至らなかったが、親子関係の悲劇という側面では母親と息子の緊張関係という違いがあるものの、新藤兼人監督の「絞殺」が思い当たる。

 

 


映画『葛城事件』予告編

 

 

  この映画に関しては、当主である葛城某のものの考え方に大きな過ちがないだけに生じた結果の悲劇性がより際立つ。もちろん横柄さや自尊心の高さなど気になるところは多い。だが彼の掲げるよりあるべき姿に近い物事の有り様は、当然のようにいつかは軟弱な姿に変貌する。そういった現実を受け入れることが出来ない父親を持った家族の悲劇である。舞台版に改訂を加えた映画脚本が息苦しいほど濃密で優れている。無差別殺人を起こした当事者である息子より、どうみても彼を育て上げた父親に焦点が当てられている。死ぬことも儘ならない父親の苦しみは極刑以上のものだ。

 

 

 

プライドと偏見…とゾンビ

 

    突如として娘です。今回は娘語りです。よろしければお付き合いください。

 

 実は私、かつてはてなダイアリーを(匿名ですが) 開設していたことがあり、その頃はそれなりにページビューを稼げていたのに、今回のこのはてなブログでは思いの外アクセス数が稼げず首をひねっています。ダイアリーのほうがもう少し負荷も少なかった気がするんですが、何か変なことしてるのかな… というか、ダイアリーのほうが文字の大きさ変えたりしやすい気がするんだけど、なぜ。どうして反応しないの。

 

  ま。どのみち更新したほうがいいので深く考えずにさくさく綴りましょう!

 

   前置きが長くなりますが、私自身、父と比べるまでもなく、一般的にも映画をほとんど見ないタイプです。直近で映画館で映画を見たのがジョージ・クルーニートゥモローランド』で、その前はデカプリオ『グレート・ギャッツビー』…かな。あれ?『めぐり逢わせのお弁当』か『マダム・イン・ニューヨーク』も見たな。そんな映画館で前々回見た作品がはっきりしないレベルで映画フリークの父と映画ブログを立ち上げるのもおこがましいかとも思いましたが、これを機に私自身も映画を見る機会が増えればいいなと思い、また私よりネット音痴?の父のサポートに入るため覚悟を決めました。

 

めぐり逢わせのお弁当 DVD

めぐり逢わせのお弁当 DVD

 

 調べたら『めぐり逢わせのお弁当』が新しかった…orz...すみません。。

 

 どうでもいい前置きが長すぎですね。いろいろ溜まっています。

 

 

 こんな映画音痴?な私ですが、はてなブログを徘徊していたら、こんなグループを見つけました。

 

《Pride and Prejudice and Zombies》http://hatenablog.com/g/10328537792364427065

 

  私自身、子どもの頃から誰の影響か若干正統派から外れた作品が好きでしたが、このPride and Prejudice and Zombies〜『プライド(高慢)と偏見とゾンビ』〜もそれ。

 


「プライドと偏見とゾンビ」公式予告編第1弾非公式日本語字幕

 

 正しくはジェイン・オースティンの原作が大好きで、イギリスのオースティンの住んでいた家や生家(のあった村)へ訪れたこともあるくらいのファンなのですが、そこにゾンビというお笑い要素が組み合わされてどストライク。映画公開を待ちわびていたので誰も参加していないグループでしたが、ついつい参加してしまいました。

  

 オースティンの原作だけでなく、『&ゾンビ』の原作も当然読んでいますが、何が面白いかといえば原作の文言を使って、部分的にゾンビを絡めるそのセンスが素晴らしくて。原作の雰囲気を活かしつつ、ゾンビ成分を高める絶妙な筆加減。(マッシュアップ小説というようですが)映画にした場合は当然ながらそのあたりの面白さが消えてしまうのではないかと不安でもありますが、才女ナタリー・ポートマンが製作に携わってる(主演?)ということで、期待しています。

 

  ん?この作品で有名なのはキーラ・ナイトレイ主演の『プライドと偏見』ですって?

 

  個人的な趣味ではありますが、『プライドと偏見』は認めておりません。なぜならその前のBBCの映像化がコリンファース主演wで素晴らしすぎるからです。こちらのタイトルは『高慢と偏見』。

 

高慢と偏見 [DVD]

高慢と偏見 [DVD]

 

 

でもオースティンファンじゃない方々には『プライドと偏見』が一般的なのも事実なのでタイトルに利用させていただきました。…というかYouTubeの動画も『プライドと偏見』を踏襲しているのね。気づいていなかったわー。

 

 ちなみにですがこの作品、意外と翻訳者泣かせなのか、翻訳タイトルがもう一つあります。いろいろ読み比べましたが、私は以下の翻訳が一番オススメ。

 

自負と偏見 (新潮文庫)

自負と偏見 (新潮文庫)

 

 

  《読書会》という集まりでこの作品が課題になった時に、上記訳本で参加した方の多くが面白かったとこの作品を評価し、他の訳本で参加された方の多くが面白さがわからなかったと評価していました。たまたまかもしれませんが、そういうこともあるので、未読の方は是非上記を選んでオースティンファンになってください。(余計なお世話ですね、そうですね。)

 

 …オースティンなら、いくらでも語れるなー。。

 

  そういや、思い出したんですが、ナタリーポートマンといえばスターウォーズのアミダラ姫で、その影武者をキーラナイトレイが演じてたという話を読んだのですが(ネットでもすぐに拾えるネタですね→http://laughy.jp/1436768359995103744)今回の『プライドと偏見とゾンビ』ではキーラ・ナイトレイの影という見方もできて面白いですね。その点でポートマンは製作に名乗りを上げたんだろうか…

 

   以上、映画は語れないけど、自分の得意分野の本を交えてならそれなりに話せそうなので今後もそういう方向で頑張ろうと思います。

 

   父と始めたばかりの拙いブログですが、これからも応援よろしくお願いします。

それではまた*\(^o^)/*

 

1960年代の終わり、大学の映画学科に進学した頃の話。

 

  自分自身にとっても思い出深い時代なのですが、この映画ブログを読んでいる人の中にも映画を勉強している学生さんもいるようなので、私が映画学科に入学した頃のことを中心にして今回は話を進めたいと思います。

 

  高校在学時には映画が生活の一部になっているほど虜になっていましたが、実は映画関連の大学に進学しようと思いたったのは受験の3ヶ月くらい前でした。

 

  偶然本屋の店先で手に取った現在も発刊している《映画芸術》という映画雑誌の裏表紙に学校の全面広告を見つけて、これだとためらわずに方向転換。そのような大学があることをそれまで全く知りませんでした。

 

 

映画芸術 2016年 05 月号 [雑誌]

映画芸術 2016年 05 月号 [雑誌]

 

 

  現在と違って、当時は映画や映像関係の学科のある4年制大学は珍しくて専門学校以外ほとんどなかったはずです。周囲の大人たちから大学に入ってもなかなか専門の知識が生かせる仕事に就くことが難しいという話を聞いていたので、大学の4年間は好きな勉強をして楽しく過ごそうと決心しました。それでも高校在学時は理数系クラスで学んでいて将来堅実な建築学科志望だったので、突如先行きの見えない映画学科を受験すると決め、英語と国語と小作文というこれまで学んでこなかった試験科目での受験が少々不安だったことは事実です。が、不思議と入学出来るのではと思えていました。何か特別なインスピレーションがあったのでしょう。専攻は監督コースや撮影・録音コースなどに比べて比較的入りやすそうな理論・評論コースに決定。これが大正解でした。

 

  理論・評論コースの仲間は確か30人弱だったと思います。特色はといえば授業がヒマということ。他の実作コースは4年時にすべて卒業制作が課せられるのに、我々のコースだけは卒業論文という特別扱い。取得単位数が驚くほど少なく、担任の先生が最初の授業でこんなことを言っていたことを今もはっきりと覚えています。

 

『単位数が少なく空いた時間が多いのは映画を沢山見るためなので、皆さん映画を見ることも授業と思って大いに映画館に出向いて下さい。』

 

  大学時代の4年間、毎年4~500本の映画を見ていたので、その限りにおいてはまずは優秀な学生だったと思います。名古屋の田舎出身の私は、他の学友に比べて映画の知識が歴然と乏しくて劣等感の固まりだったので、皆に追い付け追い越せの気持ちで映画観賞に励んだのも事実です。

 

  毎週土曜日の午後に映画学科全員が講堂に集まって映画を見て、感想などを書いて提出する2時限講義がありました。この講義だけは皆、出席率が高かったです。講師は有名な映画評論家でしたが、我々の専攻コースの担当も務めてみえて、色んな映画雑誌でこの講師の批評文を見かけたものです。当然、僕自身もこの方の映画の見方にかなりの影響を受けました。

 

  この授業で扱った作品は、フランス映画の傑作「天井桟敷の人々」や黒沢明監督の「生きる」、溝口健二監督の「近松物語」など素晴らしい名作揃い。今のようなビデオやDVDなど無かった時代なので有り難かったのなんの。過去の名画を系統立てて見る機会はほとんどなかったので、毎週万難を排して出席していました。

 

天井桟敷の人々 [DVD]

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生きる[東宝DVD名作セレクション]

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近松物語 [DVD]

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  この方から映画を見る目の養い方について、授業中にこんな話を聞いたことがあります。

 

『骨董品店の見習いになると、まずは名品と言われている一流の茶碗や壺とかの美術品を機会あるごとに見るようにいわれる。名品に10年20年と触れ合っていると、少しずつではあっても良いものが分かるようになってくるからである。だから映画も良いと言われている名作を兎も角学生の身分のうちは好き嫌い抜きにして見なさい。』

 

  自分が楽しめる映画はもちろん見て、それと平行して名作にも数多く触れることで観賞力を高めることの大切さを伝えようとしてくれたのだと今更ながら思っています。

 

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  さて、最近見た映画ですが「帰ってきたヒトラー」が面白すぎてビックリしました。ナチスの指導者のヒトラーがタイムスリップか何かで突然現在のドイツに出現して、その過激な言動でマスメディアの寵児に祭り上げられついに・・・というブラック・コメディです。社会風刺もここまでくると怖いくらいです。最初は大笑いさせておいて、次第に笑い事ではないぞと思わせる仕掛けが随所に設けられ感心させられます。稀代の戦争犯罪人ヒトラーの亡霊に脅かされるドイツの混迷が現在のニュース映像などを上手く盛り込みながら描き出されていました。

 


映画『帰ってきたヒトラー』予告編

 

  参議院選挙を間近にひかえ、我が国の社会の有り様にも一石を投じる一作で、日本では絶対作れない種類の映画内容なので、ドイツという国の懐の深さも感じます。凄いです。

 

 

父から娘へ3 〜1980年代、君たちの好きだったアンパンマン、ジブリ、チャッキー

 

   僕の勤務先の映画館にやって来て見てくれた映画は、この間の指摘通り「それいけ!アンパンマン・キラキラ星の涙」でした。亡くなったおばあちゃんも一緒に来たんですよ。1989年3月公開作で、いまはもう20作品以上作られているヒットシリーズの一作目を見に来たなんて凄いことではないですか。記念すべき一本ですね。

 

  お父さんの映画館、普段は映画ファン向けのアート系の名画(この時期でいえばルイ・マル監督の「さよなら子供たち」やアカデミー賞を獲得した「バベットの晩餐会」)を中心に上映していたミニシアターだったので、このようなポピュラーなアニメ映画が番組されるようなことは本当に珍しいことでした。

 

バベットの晩餐会 HDニューマスター [DVD]

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  実は当時、お父さんとしては名画館のイメージを損なうアンパンマンのような作品の上映はあまり行いたくなかったのですが、やはり映画館も商売ですから、春休みや夏休みG・Wなどの休日が多い時期は、家族映画も収益上の理由で扱わなければならなかったのです。でも娘の好きだったアンパンマンでもあったので上映出来て、この時は普段とは違いちょっと嬉しかったと思います。だから見に来るように話をしたのだと思います。

 

   お姉ちゃんの映画デビュー作は「となりのトトロ」でした。時期はアンパンマンのほぼ1年前、1988年のことです。劇場は今の松坂屋北館地下に当時あった〈エンゼル東宝〉でした。混雑する映画館は仕事柄嫌だったので、劇場は地味でしたね。

 

  お父さんは「天空の城ラピュタ」とか、関係作品すべてを劇場でも見ているのですが、ビデオのレンタルが始まると早速借りてきて、「おもひでぽろぽろ」とか家族揃って茶の間で見たことが楽しい思い出になっています。ジブリ・アニメは家族みんな好きでした。

 

  家族みんなが好きだったと言えば、チャッキーという凶悪な殺人人形が惨劇を繰り返す愛嬌のあるホラー作品「チャイルド・プレイ」シリーズのビデオも、折りあるたびみんなでキャーキャー叫びながら見てましたね。皆怖がりなくせにこのシリーズだけは好きだったみたいです。何作目かにチャッキーの花嫁なんかも登場して楽しませて貰いましたね。

 

チャイルド・プレイ/チャッキーの花嫁 [DVD]

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チャッキーつながりではないのですが、今日の昼にイオンに行ったついでに何か映画が見たくなり、ちょうど上映開始が間近だったので「貞子vs伽椰子」を見て来ました。ジャパニーズ・ホラー2作品のヒロイン達?を対決させようとしても上映時間100分では話らしい話にはならないことは自明の理。貞子は神出鬼没で何処にでも出現できるが伽椰子は曰くある家にしか出没出来ない設定なので、当然伽椰子の住み処がその対決場所に選ばれてました。どのように貞子をこの家に呼び込むかが注目ポイントでしたが特別な死にまつわるルールが示されこの点は成る程と納得。作品としてのコクがないので、やはり少々怖くてもアトラクション、お化け屋敷感覚の映画でしたね。(どちらが強いか勝つかと言われても、ねえ。)

 


映画『貞子vs伽椰子』予告編

 

 彼女たちの今後の進退問題にも関わってきそうなのでその辺りは少々目を見張る場面はあってもやはり、玉虫色でしたね。貞子が初めて誕生した「リング」一作目は怖さも超一級だったのですが、畸形のかなしみみたいなドラマもしっかり感じられて傑作でした。この作品を見てつくづく思いました。

 

リング (Blu-ray)

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  お手軽な映画に馴染んでいるいまの若いファン達にはホラーヒロインたちが共演するようなお化け屋敷映画がきっと受けるのでしょうね。この作品は父さんの中では5点満点の2です。が、文句を言いながらもこの手のB級映画はついつい早めに見てしまいますね。そういえば「バットマンvsスーパーマン」も突っ込み所満載の中途半端な映画でした。