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1960年代映画学科生の自己紹介映画

    娘が得意なジェーン・オースティン絡みでつないでくれたので、少しリラックス出来ました。有り難う。


  ということで本題に入りたいとおもいますが、一口に映画学科と言っても、ほんとうに色んな映画仲間がいて楽しかったですね。入学して間もなく、自己紹介をしながら好きな映画を皆の前で発表し合う授業があり、まだほとんどの人と満足な会話がなかった時期だったので、どんな映画が話題に上るのか興味津々でした。

 

  やはりというか、旬の路線ということで「俺たちに明日はない」や「夜の大捜査線」などのアメリカン・ニュー・シネマ系作品を取り上げる学友が多かったように記憶しています。 

俺たちに明日はない [DVD]

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夜の大捜査線 [DVD]
 

 

  我々の年代の学生映画ファンでこれらの既成の体制・秩序に意義を唱えるみずみずしい映画群の洗礼を受けなかった者はいないはずです。まあ鮮度はたしかにありました。十代の映画ファンに人気があった「夕陽のガンマン」などのマカロニ・ウエスタンを挙げた人もいましたが、受け狙いだったことを後日、本人から聞きました。これらのアクション映画は本当に格好良かったので、気持ちは分からなくなかったですね。

 

  僕はと言えば、映画に深入りをするきっかけにもなったJ・L・ゴダール監督作品「男性・女性」「気狂いピエロ」あたりを初めは発表しようと思っていましたが、

少々自分には荷が重いように感じられ、迷いに迷った末に大穴狙い(?)で最終的に「長距離ランナーの孤独」に決定。

 

長距離ランナーの孤独 [DVD]

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  この作品は1963年公開イギリス映画で〈怒れる若者映画〉の代表作。アメリカ映画の新しい波に先んじること5年ほど前に作られたもので、原作小説もこれまた有名。当時のイギリス社会の閉塞状況を見事に表していました。泥棒一家に育った若者の鬱屈した反骨精神がアメリカン・ニュー・シネマの主人公たち以上に僕には近しく感じられたものです。

  

長距離走者の孤独 (新潮文庫)

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  人数は少なかったのですが、ピークを迎えていた任侠映画や市川雷蔵主演作、黒沢明監督作品などの日本映画を推す学友も少なからずいたのにはショックを受けました。僕は大学に入るまで外国映画一辺倒だったので、それまでの邦画に対する偏見を後悔し、この講義以降かなり深刻な日本映画コンプレックスに陥りました。その反動は今日までも続いていて、今もどちらかといえば日本映画の方に好みが偏りがちです。それにしても学友たちの日本映画に関する知識は皆どのように身に付けてきたのか、信じられないくらいに豊富なものでした。

 

  こういった劣等感、マイナスからのスタートがエネルギー源になったせいなのか、その後は凄まじい勢いで遅れを取り戻すべく日本映画を見まくることになります。映画雑誌のベストテン選出名画をはじめ、任侠映画や渡哲也主演のB級アクションもの、しばらくしてはじまる日活ロマンポルノ及び若松孝二監督他の既成ピンク映画の領域まで、新旧問わずその対象は多岐に渡っていました。

 

  繰り返しになりますが、授業は暇だったので、ほぼ毎日のように映画を見ていました。映画の本を読み、学友と映画の話に興じ、映画のことを思わない日はなかったと思います。

 

  そんな日々のなか、専攻コース内の何人かの話の合うの仲間が出来て行動を共にすることになります。5本立てオールナイト企画などに4~5名揃ってよく参加したものです。鈴木清順監督作品の26本連続上映などの熱気は今もしっかりと覚えています。

 

鈴木清順監督 浪漫三部作 DVD-BOX

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  彼らからの影響は計り知れないほど大きく、彼らの推薦映画に時間を割き、又彼らから出来るだけ生の知識を得ることがまずは大事とその頃は思っていました。

 

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  最後に恒例の最近見た映画評。

 

  先日見た「葛城事件」には圧倒された。父親役を演じる三浦友和の怪演は見もの。この手の深刻な家族映画を見るのはいつ以来だろうと記憶をたどってみてもなかなかそれらしい作品に思い至らなかったが、親子関係の悲劇という側面では母親と息子の緊張関係という違いがあるものの、新藤兼人監督の「絞殺」が思い当たる。

 

 


映画『葛城事件』予告編

 

 

  この映画に関しては、当主である葛城某のものの考え方に大きな過ちがないだけに生じた結果の悲劇性がより際立つ。もちろん横柄さや自尊心の高さなど気になるところは多い。だが彼の掲げるよりあるべき姿に近い物事の有り様は、当然のようにいつかは軟弱な姿に変貌する。そういった現実を受け入れることが出来ない父親を持った家族の悲劇である。舞台版に改訂を加えた映画脚本が息苦しいほど濃密で優れている。無差別殺人を起こした当事者である息子より、どうみても彼を育て上げた父親に焦点が当てられている。死ぬことも儘ならない父親の苦しみは極刑以上のものだ。