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『シアター・プノンペン』から観るミニシアターの悲喜

 

  「シアター・プノンペン」予告編

   しばらく前に見た「シアター・プノンペン」はガチガチのミニシアター映画だった。名古屋地区上映館は座席数50ほどの映画ファン好みの超小ぶりな名物シアター。この映画館はアジア映画を中心にアート映画からカルト・ムービーまで取扱い、上映作品の面白さ、幅広さには定評がある。

  この作品、東京では老舗の岩波ホールの公開作品ということもあるし、久し振りの本格派の名画上映でさぞ賑わっているのではと思いきや興行面では思いの他に不振だったとか。確かに僕が出向いたのが午後2時台の一番見やすい時間帯だったのにもかかわらず観客数はといえば10名にも満たなかった。

  劇場スタッフの話を聞いてみると昨年9月開催の地元の国際女性映画祭で上映されていることが不入りの原因になっているとのこと。

 ただ、東京は事情が違うようで、2年前の東京国際映画祭でこの作品が「遺されたフィルム」という原題で上映されているそうなのだが、東京・岩波ホールの本興行ではその影響はほとんど無く、そこそこのヒットを記録しているらしい。

東京の懐の深さは驚くばかりで、名古屋のような地方都市(?)では、事前に特別上映や試写会があったりすると映画ファン層が薄いので興行成績の面では致命的になることが多いみたいである。

  この手の作品に興味を覚える映画ファンは我が都市には1000人もいないのではなかろうか。いや1000人以上いても幾つかある名画館に分散したりすれば、観客数が100人200人ということもままあることのように思われる。ガチガチの名画ファンではなくても、ちょっと変わった映画にかすかにも興味を覚える人たちが3000人とか5000人とかいれば、ミニシアター関係者もかなりの冒険ができるはずなのだが、現実はそんなに甘いものではないようだ。

  もう30年以上前になるが、僕がミニシアターの担当をしていた頃はライバル館がほとんど無かったので話題作を一手に引き受けて上映出来たのでラッキーだった。それでも興行予想を会社に提出する際は、土曜日150人日曜日200人平日100人、週計で850人の観客動員を基本線にしていた。そして多くは2週間上映であった。

   華やかな映画業界でも裏方のことなのであまり知られてはいないが、映画館経営も商売なので一般的な会社員同様に計画数字もあれば上司への報告もある。映画賞を獲得していたりして話題性がある作品の場合はその2割増しとか、またより地味な内容の作品であれば2割減の数字で予想表を提出すれば上司もこんなものだろうと納得してくれたものだ。

トリュフォー監督の「緑色の部屋」やフェリーニ監督の「オーケストラ・リハーサル」、鈴木清順監督の「チゴイネルワイゼン」などがその当時に扱った作品である。これらの作品を上映できたことは幸福なことだったと今も思える。 

緑色の部屋 [VHS]

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オーケストラ・リハーサル [DVD]

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ツィゴイネルワイゼン [DVD]

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     ただ、この名画館が老朽化のため閉館になったので次の異動先は何と洋画東宝系の駅前メジャー館。落差が激しい。すぐに「南極物語」の上映がはじまり、一日4000人とか5000人だったかなともかく凄まじい集客数で、ミニシアター経験支配人としては驚いたことを覚えている。

南極物語 [DVD]

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  ミニシアターなら一週間で1000人の動員数があれば大ヒットで新聞マスコミに売り込みが図れるほどの大事件。それが、メジャーなヒット作品となると一日で5000人前後の動員数が連日つづくというのだ。翌年にはジャッキー・チェンの「プロジェクトA」やスピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」などの話題作も扱うことになった。こんなバケモノ映画との付き合いは苦手だったので、上司に相談して翌年には系列館の新たなミニシアターに再度異動させていただいた。 

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     バケモノ映画といえば、ここのところ、「シン・ゴジラ」や「君の名は。」の動員数が凄すぎる。「君の名は。」の入場者数が1000万人を超えたとか。それだけの話題性のある映画なので致し方ないのかもしれないが、僕が映画を見出した頃はファンの嗜好はもう少しばらけていたと思うがどうだっただろう。妻夫木くんや宮崎あおいさんや広瀬すずちゃんが奮闘努力している「怒り」や蒼井優が重い役柄に挑戦している「オーバー・フェンス」の興行成績が気になるところだ。クリント・イーストウッド監督の「ハドソン川の奇跡」も期待以上の出来だったのに空席が目立っていたので心配でしかたがない。さほどの作品ではなかったが、数日前に見た「真田十勇士」も日曜日の真昼間にしては場内が閑散としていた。ロビーはどこのシネコンも人で溢れていても、動員状態は偏っているのだろうな。 


「怒り」予告2

 


「オーバー・フェンス」予告編

 


『ハドソン川の奇跡』特別本編映像

   ミニシアターの話から、少々愚痴っぽい話になってきたので軌道修正。

 「シアター・プノンペン」は僕もまったく見た記憶がないカンボジア映画。1970年代半ばに台頭したカンボジア共産党クメール・ルージュの圧政の真相を描こうとしながら親世代に気兼ねしたものか、ファンタジーやメタファーに逃避した印象を強く感じる作品である。隣人同士が戦うこともある内乱の悲劇が、映画の作りにも作用しているように思われた。当時の極限かで皆必死で生きてきたはずなので、軽々しく批判してはいけないというところであろうか。

  恋愛映画であり青春映画であり、また過去の悲劇を告発する映画でもあった。2時間弱の上映時間では内容が多岐にわたり過ぎて未消化の部分も多くあったようだが、首都プノンペンの復興の様子はスクリーンを通じてよく伝わってきた。あまり馴染のないカンボジアという国の現状を知るには最適な映画のような気がした。国内では記録的なヒットを記録しているとのことで、この国のすべての世代が楽しめる内容にしてまずは成功した作品と言えよう。映画はまずは自国の観客を対象として作られるものだからだ。ラストシーンの大団円の歪みはこの映画の隠し味と言えるのではあるまいか。我々日本人から見れば、最大の注目点である。

  そうそう、「シアター・プノンペン」との邦題が素晴らしいと映画の話をし合った仲間が指摘していたが、たしかに原題の「遺されたフィルム」よりはずっと良い。廃墟になっている映画館が重要な役割を果たしているので尚更である。