1960年代の終わり、大学の映画学科に進学した頃の話。

 

  自分自身にとっても思い出深い時代なのですが、この映画ブログを読んでいる人の中にも映画を勉強している学生さんもいるようなので、私が映画学科に入学した頃のことを中心にして今回は話を進めたいと思います。

 

  高校在学時には映画が生活の一部になっているほど虜になっていましたが、実は映画関連の大学に進学しようと思いたったのは受験の3ヶ月くらい前でした。

 

  偶然本屋の店先で手に取った現在も発刊している《映画芸術》という映画雑誌の裏表紙に学校の全面広告を見つけて、これだとためらわずに方向転換。そのような大学があることをそれまで全く知りませんでした。

 

 

映画芸術 2016年 05 月号 [雑誌]

映画芸術 2016年 05 月号 [雑誌]

 

 

  現在と違って、当時は映画や映像関係の学科のある4年制大学は珍しくて専門学校以外ほとんどなかったはずです。周囲の大人たちから大学に入ってもなかなか専門の知識が生かせる仕事に就くことが難しいという話を聞いていたので、大学の4年間は好きな勉強をして楽しく過ごそうと決心しました。それでも高校在学時は理数系クラスで学んでいて将来堅実な建築学科志望だったので、突如先行きの見えない映画学科を受験すると決め、英語と国語と小作文というこれまで学んでこなかった試験科目での受験が少々不安だったことは事実です。が、不思議と入学出来るのではと思えていました。何か特別なインスピレーションがあったのでしょう。専攻は監督コースや撮影・録音コースなどに比べて比較的入りやすそうな理論・評論コースに決定。これが大正解でした。

 

  理論・評論コースの仲間は確か30人弱だったと思います。特色はといえば授業がヒマということ。他の実作コースは4年時にすべて卒業制作が課せられるのに、我々のコースだけは卒業論文という特別扱い。取得単位数が驚くほど少なく、担任の先生が最初の授業でこんなことを言っていたことを今もはっきりと覚えています。

 

『単位数が少なく空いた時間が多いのは映画を沢山見るためなので、皆さん映画を見ることも授業と思って大いに映画館に出向いて下さい。』

 

  大学時代の4年間、毎年4~500本の映画を見ていたので、その限りにおいてはまずは優秀な学生だったと思います。名古屋の田舎出身の私は、他の学友に比べて映画の知識が歴然と乏しくて劣等感の固まりだったので、皆に追い付け追い越せの気持ちで映画観賞に励んだのも事実です。

 

  毎週土曜日の午後に映画学科全員が講堂に集まって映画を見て、感想などを書いて提出する2時限講義がありました。この講義だけは皆、出席率が高かったです。講師は有名な映画評論家でしたが、我々の専攻コースの担当も務めてみえて、色んな映画雑誌でこの講師の批評文を見かけたものです。当然、僕自身もこの方の映画の見方にかなりの影響を受けました。

 

  この授業で扱った作品は、フランス映画の傑作「天井桟敷の人々」や黒沢明監督の「生きる」、溝口健二監督の「近松物語」など素晴らしい名作揃い。今のようなビデオやDVDなど無かった時代なので有り難かったのなんの。過去の名画を系統立てて見る機会はほとんどなかったので、毎週万難を排して出席していました。

 

天井桟敷の人々 [DVD]

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生きる[東宝DVD名作セレクション]

生きる[東宝DVD名作セレクション]

 

 

近松物語 [DVD]

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  この方から映画を見る目の養い方について、授業中にこんな話を聞いたことがあります。

 

『骨董品店の見習いになると、まずは名品と言われている一流の茶碗や壺とかの美術品を機会あるごとに見るようにいわれる。名品に10年20年と触れ合っていると、少しずつではあっても良いものが分かるようになってくるからである。だから映画も良いと言われている名作を兎も角学生の身分のうちは好き嫌い抜きにして見なさい。』

 

  自分が楽しめる映画はもちろん見て、それと平行して名作にも数多く触れることで観賞力を高めることの大切さを伝えようとしてくれたのだと今更ながら思っています。

 

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  さて、最近見た映画ですが「帰ってきたヒトラー」が面白すぎてビックリしました。ナチスの指導者のヒトラーがタイムスリップか何かで突然現在のドイツに出現して、その過激な言動でマスメディアの寵児に祭り上げられついに・・・というブラック・コメディです。社会風刺もここまでくると怖いくらいです。最初は大笑いさせておいて、次第に笑い事ではないぞと思わせる仕掛けが随所に設けられ感心させられます。稀代の戦争犯罪人ヒトラーの亡霊に脅かされるドイツの混迷が現在のニュース映像などを上手く盛り込みながら描き出されていました。

 


映画『帰ってきたヒトラー』予告編

 

  参議院選挙を間近にひかえ、我が国の社会の有り様にも一石を投じる一作で、日本では絶対作れない種類の映画内容なので、ドイツという国の懐の深さも感じます。凄いです。